二胡を選ぶとき、多くの方は二胡本体の木材や価格、音色についてはよく比較されます。
しかし、意外と見落とされているのが「二胡の弓」です。
私は長年、二胡の演奏・教育、そして楽器や音色の研究に携わってきました。その経験から、二胡を美しく、そして弾きやすく演奏するためには、二胡本体だけではなく、自分に合った弓を選ぶことが非常に重要だと考えています。
特に初心者の場合、扱いにくい弓を使っていることで、
「音がきれいに出ない」
「内弦を弾いているのに外弦まで鳴ってしまう」
「弓が安定しない」
「雑音が出る」
「自分の運弓が悪いのではないか」
と長く悩んでしまうことがあります。
しかし、その原因は必ずしも演奏技術や二胡本体だけにあるとは限りません。
今使っている二胡弓そのものが、演奏しにくい弓である可能性もあるのです。
「安い二胡だから雑音が出る」と言われたお客様
先日、二胡を習い始めて3年になる方から相談を受けました。
その方がずっと悩んでいたのは、
「内弦を弾いているのに、外弦の音まで一緒に出てしまう」
という問題でした。
先生に相談したところ、「安い二胡だから雑音が出る」と言われ、黒檀二胡への買い替えを勧められたそうです。
しかし、現在使っている二胡もその教室で購入したものだったため、
「また、もっと高い二胡に買い替えなければならないのだろうか」
という不安を感じ、私のところへ相談に来られました。
私はまず、
「新しい二胡を買う前に、今使っている二胡を一度持って来てください」
とお伝えしました。
実際に楽器を見て、弾いて確認してみると、私が最初に気になったのは二胡本体ではありませんでした。
問題は弓にありました。
その弓は、初心者にはコントロールしにくいものでした
その方が使っていた二胡弓を見ると、
竹が太い
弓が長い
馬の尾毛の量が非常に多い
そして弓全体がとても重い
という特徴がありました。
私が実際に弾いてみても、非常に扱いにくく、内弦と外弦を細かくコントロールしにくい弓でした。
二胡は、内弦と外弦の間に馬の尾毛を通し、右手で弓を細かくコントロールしながら二本の弦を弾き分ける楽器です。
初心者にとって運弓は、二胡を学ぶうえで最も大切な基礎の一つです。
そこに必要以上に重く、長く、馬の尾毛も多い弓を使えば、正確なコントロールがさらに難しくなります。
今回のように、内弦を弾こうとしているのに外弦まで鳴ってしまう場合、すぐに
「二胡が安いから」
と判断するのではなく、まず二胡本体、弓、調整状態、そして演奏方法まで含めて原因を確認する必要があります。
二胡弓は「見た目」だけで選ばない
二胡弓について、よく次のような考えを耳にします。
「竹は太い方が良い」
「弓は長い方が良い」
「馬の尾毛は多い方が良い」
「竹に節がない方が高級で良い」
見た目だけを見ると、太く、長く、馬の尾毛がたくさん付いた弓は立派に感じるかもしれません。
しかし、私は長年さまざまな二胡弓を見てきましたが、この4つだけで良い弓かどうかを判断することはできないと考えています。
良い二胡弓に最も大切なのは、全体のバランスと操作性です。

1.二胡弓の竹は「太ければ良い」わけではない
竹が太いと、丈夫でしっかりした弓に見えます。
しかし、二胡弓に必要なのは単純な太さではありません。
私が弓の竹を見るときに大切にしているのは、
竹のしなやかさ、しなり、反発力、重さ、真っ直ぐさ、そして弓全体のバランスです。
特に重要なのは、竹のしなやかさと反発力です。
右手の動きに合わせて竹が自然にしなり、そこから適度に戻る力があることで、演奏者の右手の力や動きを弦へ伝えやすくなります。
必要以上に太く重い竹は、右手への負担が大きくなり、細かな運弓や内弦・外弦の切り替えが難しくなる場合があります。
もちろん、反対に「細ければ細いほど良い」ということでもありません。
太いか細いかではなく、その竹が持っている性質と、一本の弓として仕上がったときのバランスを見ることが大切です。
2.二胡弓の長さは約82cmを一つの目安に
二胡弓は、
「長ければ長いほど良い」
というものではありません。
私が一般的な二胡演奏用としておすすめしている弓の長さは、約82cmです。
82cm前後は一般的な標準サイズとして扱いやすく、特に初心者や趣味で二胡を楽しむ方にとって、運弓とコントロールのバランスが取りやすいと私は考えています。
もちろん、プロの演奏家の中には、自分の演奏スタイルや身体、演奏する曲などに合わせて、異なる長さの弓を使う方もいます。
プロの演奏家が自分に合わせて弓を選ぶことと、初心者が「長い方が良い」と考えて選ぶことは別の話です。
特に趣味で二胡を学ぶ方の場合、必要以上に長い弓はコントロールしにくくなることがあります。
大切なのは長さだけではありません。
長さ・重さ・竹のしなり・反発力・重心・馬の尾毛。
すべてのバランスを見る必要があります。

3.馬の尾毛は「多ければ良い」わけではない
これも二胡弓について非常によくある誤解です。
「馬の尾毛がたくさん付いている方が、弦をしっかり擦るから良い音が出る」
と思われる方がいます。
しかし、馬の尾毛にも適切な量があります。
多ければ多いほど良いわけではありません。
馬の尾毛は、松脂とともに弦を捉え、弦を振動させる非常に重要な部分です。
だからこそ、
馬の尾毛の質、量、太さ、弾力、揃い方、張り具合、そして竹とのバランス
を見ることが大切です。
馬の尾毛が必要以上に多く、さらに竹まで太く重ければ、弓全体が重くなり、初心者には扱いにくい弓になる場合があります。
4.「竹に節がない=良い二胡弓」とは限らない
「節がない竹の方が高級だから、良い弓だ」
と思われることもあります。
しかし、私は竹に節があるか、ないかだけで弓の良し悪しを判断することはできないと考えています。
大切なのは、一本の竹全体の性質です。
節の有無だけを見るのではなく、
しなやかさ、しなり、反発力、真っ直ぐさ、重量、そして実際に弓として使ったときのバランス
を確認する必要があります。
初心者ほど「扱いやすい二胡弓」を選んでほしい
上級者やプロの演奏家であれば、自分の技術や演奏スタイルに合わせて、特徴のある弓を使いこなすこともできます。
しかし初心者は、これから正しい運弓を身につけていく段階です。
その時期に、
重すぎる
長すぎる
竹が硬すぎる
馬の尾毛が多すぎる
全体のバランスが悪い
といった弓を使用すると、必要以上に右手へ力が入り、正しい運弓を身につけることまで難しくなる場合があります。
そして一番残念なのは、
「自分が下手だから、きれいな音が出ない」
と思い込んでしまうことです。
もちろん、二胡の上達には正しい基礎練習が必要です。
しかし、道具が正しい技術を身につける邪魔をしてはいけません。
初心者だからこそ、右手の動きに素直に反応し、内弦と外弦をコントロールしやすい二胡弓を選んでほしいと思います。
二胡弓はいつ交換する?弓の買い替え時期について
二胡弓は、永久に同じ状態で使えるものではありません。
長期間使用すると、馬の尾毛だけでなく竹も消耗していきます。
ここは、ヴァイオリンなどの弓とは少し考え方が違うところです。
二胡を演奏するとき、馬の尾毛は弦と接触しますが、それだけではありません。
運弓の際には、弓の竹も二胡の胴(琴筒)に触れながら左右に動きます。
そのため、演奏を重ねることで、馬の尾毛は弦との摩擦などによって徐々に状態が変化し、同時に竹も胴との接触によって少しずつ摩耗していきます。
特に練習量の多い方の場合、竹の胴に接触する部分が徐々に削れたり、表面が傷んだりすることがあります。
つまり、二胡弓は馬の尾毛だけを見て交換時期を判断するものではありません。

二胡弓は基本的に「毛の張り替え」ではなく「弓ごと交換」
ヴァイオリンなどでは、弓の毛を張り替えながら同じ弓を長く使用することが一般的です。
一方、二胡の弓は基本的に馬の尾毛だけを張り替えるのではなく、弓全体を交換します。
二胡の場合は、馬の尾毛だけでなく、竹も演奏によって消耗していくためです。
そのため、二胡弓の状態を見るときには、
馬の尾毛の状態
竹の摩耗
竹のしなり
反発力
真っ直ぐさ
弓全体のバランス
まで一緒に確認することが大切です。

こんな状態になったら二胡弓の交換を考えましょう
次のような変化があれば、一度弓の状態を確認してみてください。
- 松脂を塗っても以前より弦を捉えにくい
- 弓が滑りやすくなった
- 音の立ち上がりが悪くなった
- 馬の尾毛が何本も切れ、量がかなり減ってきた
- 馬の尾毛が伸びて、適切な張り具合にしにくい
- 馬の尾毛が汚れたり、変色したりしている
- 竹の胴に当たる部分がかなり摩耗している
- 竹のしなりや反発力が以前と違うように感じる
- 弓全体が以前より扱いにくく感じる
交換時期は、練習量や演奏頻度、保管環境などによって変わります。
毎日何時間も二胡を弾く方と、週に数回趣味で楽しむ方では、当然弓の消耗する速度も違います。
そのため、単純に使用年数だけで判断するのではなく、期間・馬の尾毛・竹・実際の弾き心地を総合的に見ることが大切です。
松脂をたくさん塗れば解決するとは限りません
弓が滑ったり音が出にくくなったりすると、
「松脂が足りないのでは?」
と考えて、何度も松脂を塗る方がいます。
もちろん松脂は、馬の尾毛が弦を捉えるために必要です。
しかし、馬の尾毛や弓そのものがすでに消耗している場合、松脂を増やすだけでは根本的な解決にならないことがあります。
最近、
「以前より音が出にくい」
「音に力がなくなった」
「弓が滑る」
「雑音が増えた」
と感じたら、松脂だけではなく、弓全体の状態も確認してみてください。
[二胡]弓の良し悪し‼️ニ胡の音色に左右されます。選び方ご存知ですか?
二胡の雑音=二胡本体が悪い、とは限らない
今回ご相談いただいた方のように、二胡の雑音で悩んでいる方は少なくありません。
しかし、
「雑音が出る=安い二胡だから」
とすぐに判断することはおすすめしません。
二胡の音には、
二胡本体
弓
馬の尾毛
弦
駒
千斤
松脂
楽器の調整
そして演奏方法
など、さまざまな要素が関係しています。
高い二胡へ買い替える前に、まず今使っている二胡と弓を確認し、本当の原因がどこにあるのかを調べることが大切です。
場合によっては、二胡本体を買い替えなくても、弓や楽器の調整を見直すことで問題が改善することがあります。

曽朴が考える「良い二胡弓」とは
私は、良い二胡弓とは、
見た目が立派な弓ではなく、演奏者の右手に素直に反応してくれる弓
だと考えています。
竹が太いから良いのではありません。
弓が長いから良いのでもありません。
馬の尾毛が多いから良いのでもありません。
竹に節がないから良い、ということでもありません。
私が見るのは、
竹のしなやかさ、しなり、反発力、重さ、真っ直ぐさ、弓の長さ、重心、馬の尾毛の質と量、そして一本の弓としての全体のバランスです。
特に初心者や趣味で二胡を楽しむ方には、見た目の豪華さよりも「扱いやすさ」を大切にしてほしいと思います。
良い弓は、右手の動きを自然に弦へ伝えてくれます。
内弦と外弦を切り替えやすく、弱い音から強い音までコントロールしやすくなり、二胡本来の音色を引き出す助けになります。
弓は、演奏者の右手と二胡をつなぐ大切な道具です。
そして私は、
「弓を選ぶことは、音色を選ぶことでもある」
と考えています。
二胡を購入するときには、本体だけではなく、ぜひ弓にも目を向けてみてください。
二胡弓の選び方、どんな弓が良いか?運弓や音色にも影響を与えます。
また、今使っている二胡で「音が出しにくい」「雑音が多い」「内弦と外弦をうまく弾き分けられない」と悩んでいる方は、新しい二胡へ買い替える前に、一度楽器と弓の両方を確認してみることをおすすめし
