王国潼とは?現代二胡の発展を切り開いた演奏家・教育家|劉天華から受け継がれた二胡芸術

目次

はじめに|劉天華から王国潼へ


これまで「曽朴の二胡ブログ」では、近代二胡の基礎を築いた劉天華、そしてその教えを受け継いだ儲師竹(储师竹)・陳振鐸(陈振铎)・蒋風之(蒋风之)についてご紹介してきました。
劉天華が切り開いた二胡の新しい道は、弟子たちによって受け継がれ、教育・教材・演奏・作品・楽器改革へと発展していきます。


そして、その次の世代を考えるとき、二胡の歴史上欠かすことのできない人物の一人が、
王国潼(おう・こくとう/Wang Guotong)先生です。


王国潼先生は、陳振鐸、蒋風之らに学び、劉天華から続く二胡芸術を受け継ぎながら、新しい演奏技術、教育、教材、楽器研究、そして海外への普及へと発展させていきました。
今回は王国潼先生の歩みを通して、近代二胡がどのように現代二胡へ発展していったのかを見ていきたいと思います。

王国潼とは?


王国潼は1939年、山東省に生まれた中国を代表する二胡演奏家・教育家です。
中央音楽学院で二胡を学び、陳振鐸、蒋風之など、劉天華の流れを直接受け継ぐ二胡教育家たちから指導を受けました。
1960年、優秀な成績で中央音楽学院を卒業し、そのまま同学院で教鞭を執ります。
その後、中国放送民族楽団(中国广播民族乐团)の二胡首席、中央音楽学院民楽系主任などを歴任。
さらに香港でも二胡教育・中国民族音楽の普及に力を注ぎ、中国国内だけでなく海外においても二胡芸術の発展に大きな役割を果たしました。

劉天華から受け継がれた二胡の系譜


王国潼先生を理解するとき、まず注目したいのが「師承」です。
二胡の歴史は、作品だけでつながっているわけではありません。
先生から弟子へ、
演奏技術

音色

運弓

運指

音程

作品解釈

教育方法
が伝えられてきました。
その大きな流れを見ると、
劉天華

陳振鐸・蒋風之ら

王国潼

次世代の二胡演奏家・教育家
という重要な継承関係が見えてきます。


劉天華が近代二胡の基礎を築き、その弟子たちが教育と演奏を発展させ、さらに王国潼の世代によって現代的な二胡演奏へと広がっていったのです。

《三門峡暢想曲》《豫北叙事曲》が示した新しい二胡


王国潼先生の演奏活動を語る上で非常に重要なのが、
《三門峡暢想曲》
《豫北叙事曲》
などの作品です。


20世紀中頃になると、二胡作品にはそれまで以上に高度な演奏技術と幅広い表現力が求められるようになりました。


王国潼先生は優れた技術によってこれらの作品を演奏し、新しい時代の二胡演奏の可能性を示しました。
その演奏は力強さとスケール感を持ちながら、音色には丸みと深みがあり、感情表現にも優れていました。


これは非常に重要な変化です。
劉天華の時代に独奏楽器としての道を歩み始めた二胡は、王国潼の世代になると、さらに高度な技巧と大きな音楽表現を担う楽器へと発展していったのです。

演奏家だけではない——作品を生み出した王国潼


王国潼先生は演奏家・教育家であると同時に、二胡作品の創作・編曲にも取り組みました。
代表的な作品には、

  • 《懐郷曲》
  • 《翻身歌》
  • 《奔馳在千里草原》
  • 《喜看麦田千層浪》
    などがあります。

こうした作品を通じて、二胡の力強さ、歌唱性、民族的な音楽表現など、さまざまな可能性を追求していきました。
演奏するだけではなく、新しい二胡のレパートリーそのものを作っていったことも重要な功績です。

王国潼が残した二胡教材


私が王国潼先生の功績の中でも特に重要だと思うのが、教育と教材です。
王国潼先生は、
《二胡音階練習》
《二胡練習曲選》
《二胡基礎教程》
《二胡基礎練習三百首》
《二胡曲九首及其演奏芸術要求》
など、二胡学習のための教材・著作を残しました。


ここには、二胡という楽器が「先生の演奏を見て真似をする」という段階から、より体系的に学べる楽器へ発展してきた歴史を見ることができます。


音階を練習する。
音程を身につける。
運指を練習する。
運弓を練習する。
練習曲で技術を身につける。
そして作品へ進む。
現在では当たり前のように感じるかもしれません。
しかし、こうした教育体系が積み重ねられてきたからこそ、現在の私たちは二胡を段階的に学ぶことができるのです。

「音程」を研究した二胡教育家


王国潼先生の研究には、私が二胡教育で非常に大切にしているテーマもあります。
それが音程と音色です。


王国潼先生は、
《二胡発音与音色研究》
《論二胡的音準》
など、二胡の発音、音色、音程に関する研究・文章も残しています。


二胡には、ギターのようなフレットがありません。
そのため、左手のフォーム、指の位置、指と指の間隔、耳による確認などによって正確な音程を作らなければなりません。
これは現代の初心者教育でも変わらない、二胡演奏の基本です。
どれだけ難しい曲が弾けても、音程が安定しなければ美しい二胡演奏にはなりません。
基礎の上に技術があり、技術の上に表現がある。
王国潼先生の教育・研究を見ると、二胡が高度に発展していく中でも「基礎」がいかに重要であるかが分かります。

王国潼と二胡の楽器改革|現在の北京八角二胡へ

王国潼を語るうえで、もう一つ忘れてはならないのが楽器改革への取り組みです。

王国潼は満瑞興らと協力し、

方円二胡
低調粗弦二胡
扁八角高胡

など、新しい楽器仕様の研究・開発にも取り組みました。

特に方円二胡をはじめとする琴筒構造の研究・改良は、北京系二胡の発展に大きな影響を与え、今日広く見られる北京八角二胡へつながる重要な楽器改革の一つとして捉えることができます。

ここにも、近現代二胡史の一つの特徴があります。

二胡の発展とは、演奏技術だけの発展ではありません。

より豊かな音色を求めれば、楽器の構造研究が必要になります。

新しい作品が生まれれば、新しい演奏技術が必要になります。

演奏技術が高度になれば、それを次世代へ伝える教材と教育方法が必要になります。

つまり、

楽器・演奏・作品・教材・教育・研究

は、それぞれ別々に発展してきたのではありません。

互いに影響しながら、今日の二胡を作ってきたのです。

二胡を世界へ


王国潼先生は、中国国内だけで活動した二胡演奏家ではありません。
世界各地で演奏や講義を行い、海外のオーケストラとの共演などを通じて、二胡という楽器を国際的な舞台へ紹介してきました。
また、香港で長年にわたって教育・普及活動を行ったことも重要です。
二胡は中国国内で演奏される民族楽器から、世界各国の人々が演奏し、学ぶ楽器へと広がっていきました。


現在、日本にも多くの二胡愛好家がいます。
私自身も長年日本で二胡を指導してきましたが、今日これほど多くの日本人が二胡を学ぶことができる背景には、こうした先人たちによる長年の教育と普及の積み重ねがあります。

劉天華から現代二胡へ


ここまで二胡の歴史を追ってくると、一つの大きな流れが見えてきます。
劉天華
二胡を近代的な独奏楽器・教育楽器へ

儲師竹・陳振鐸・蒋風之ら
演奏・教育・教材・作品・楽器改革を継承

王国潼ら次世代
高度な演奏技術・体系的教育・研究・楽器改革・国際普及へ

現代の二胡
世界各地で演奏され、学ばれる民族楽器へ
この歴史を見ると、二胡は誰か一人の力によって現在の姿になったのではないことが分かります。
一人の音楽家が新しい道を切り開き、その教えを弟子が受け継ぎ、さらに次の世代が新しい時代に合わせて発展させる。
その繰り返しによって、今日の二胡芸術が作られてきたのです。

私が二胡教育で大切にしていること


私自身、長年日本で二胡を教えてきました。
その中で一貫して大切にしているのは、「曲を弾く前に、曲を弾くための基礎を作る」ということです。


正しい演奏姿勢。
弓の持ち方。
長弓。
運弓。
左手のフォーム。
虎口の位置。
指の間隔。
保留指。
音階。
音程。
そして練習曲。


こうした基礎を一つずつ身につけ、その上で楽曲を学んでいく。
これは決して遠回りではありません。


むしろ、将来さまざまな曲を自由に演奏するための一番大切な土台になります。
王国潼先生が音階練習、基礎教程、練習曲、音程や音色の研究を残していることを見ると、改めて二胡教育における「体系」と「基礎」の重要性を感じます。

教えるだけでは、次の時代には残らない


一人の先生が一生の間に直接教えられる生徒の人数には限界があります。
しかし、
教育方法を作る。
教材を残す。
指導者を育てる。
ことができれば、その教育は先生本人が直接教えた生徒だけでは終わりません。
次の指導者から、そのまた次の学習者へ伝わっていきます。
劉天華が残したものを弟子たちが受け継ぎ、蒋風之・陳振鐸らの教えを王国潼の世代がさらに発展させた。
二胡の歴史そのものが、教育を次世代へ残すことの大切さを教えてくれているように思います。


私も日本で二胡を教える一人として、ただ自分が演奏するだけではなく、これまで培ってきた教育方法や教材を残し、さらに二胡を正しく教えられる指導者を育てていきたいと考えています。
それによって、今の生徒だけではなく、その先の何百人、何千人という二胡学習者へ、二胡の美しい音色と正しい演奏技術を伝えていくことができるからです。

まとめ|二胡の歴史とは「受け継ぎ、発展させる歴史」


王国潼先生の歩みを見ると、現代二胡の発展には、
演奏・作品・教育・教材・研究・楽器改革・国際普及
という多くの要素が関係していることが分かります。


劉天華が築いた近代二胡の基礎。
それを受け継いだ陳振鐸、蒋風之らの世代。
そして、さらに現代的な演奏・教育へ発展させた王国潼らの世代。


二胡はこうして、人から人へ受け継がれながら進化してきた楽器なのです。
私たちが今、二胡を学び、演奏できることも、この長い継承の延長線上にあります。
二胡の歴史を知ることは、単に昔の音楽家について知ることではありません。


「自分が今学んでいる二胡は、どこから来たのか」
を知ることでもあります。
そして私たちが学んだ二胡を次の世代へ伝えていくことによって、この歴史はこれからも続いていくのだと思います。

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この記事を書いた人

二胡演奏歴50年以上
二胡製作研究家
高級二胡専門店「名師堂」代表
SOBOKU二胡スクール代表
初心者からプロまで1,000名以上を指導。

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